〜銀髪戦姫〜第4話序章

ユサユサユサ

「おい…起きろ…」

ユサユサユサユサユサユサ

「んっ…ん〜っ…」

俺はまだ眠いんだ…だいたい…あんな事があった後なんだ
少しは休ませてくれてもいいじゃないか…
ユサユサユサ
頑張ったじゃないか
そりゃあ頑張ったよ
…でも……何を頑張ったんだっけ? アレ?…思い出せない…ホントなんだっけ?
ユサユサユサ
だーっ人が考え事してるっていうのに
邪魔するんじゃねえ
ガバッと起きる
そして先ほどから人の考えを邪魔している奴が誰なのか
確認する為に睨む
目の前に銀色で長い刃
なんですか?これ?
いやまあ剣の刃ってことはわかる
でもアレだ
起きてイキナリ目の前にあるってことは
普通ないだろう?


「むぅ…これが刺さったら…死んじゃうよね?」

当たり前の事を言ってしまう
まだ寝ぼけているのか
さっきまでなにか考え事もしていたような気もするが
綺麗さっぱり忘れてしまった
こんなことがあれば仕方ないと思う
とりあえず観察
剣を突きつけてるのは女
見たことは無い
うん…綺麗といえるな…
銀色の髪がポニーテールというか
後ろに束ねてあって中々に個人的にポイントが高い
赤い瞳は少し怖いが、切れ長で凛々しい
うーん好みの顔立ちかも…
身体にタイトな服を着ている
胸も大きいね…うーんセクシーダイナマイト
見上げてる所為かもしれないがかなりのシロモノだ
……
「…白か」

思わず口走ってしまった
目の前の女は訝しげな顔したあと
ハッと気がついたようにタイトなスカートを
抑えた


「き、きさま……み、みたのか?」

物凄く恥ずかしそうにしている
真っ赤にした顔を見ていると 見た目のイメージより幼い感じだ

「あ、いや…みたというか…みえたというか…
こっ…この状態だと不可抗力じゃない?」

怒気の篭った視線は殺気すら感じる
案外純情なひとのようだ
剣がぐいっと目の前に突きたてられる

「…こ、この無礼モノ…本来なら直ぐにでも
制裁を加えるところだが…まあ私の不注意もあるからな…
不問にするが…」

無礼モノに制裁ってどこかのお姫様か! と突っ込みたいところだが そういう場合でもないみたいだ
何故かトンでもない事になっている
石造りの部屋、良くは判らんけどけっこう好い作りだ
家具というかベットや装飾品に金がかかっている感じ
一見しても庶民の暮らしとはかけ離れている

「それよりも貴様、何故私のベットで寝ている…
返答次第じゃ、貴様の言葉通りにしてやるからな」

言葉通りって刺さったら死んじゃうって事か? …物騒なことをいう女
問答無用ってことですか?
いや返答次第なので、そうじゃないが
どちらにせよ下手なことを言えば
刺さっちゃうみたいですよ?
まったく急展開でついていけない…
突拍子も無い出来事が起こりまくりだ
何故寝てるって言われてもなあ…
・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アレ?思い出せない
なんで俺はココに居るんだ?
今まで何してたかとか
なにも知らないぞ俺
ど、どういうことだ!

「おい…返答次第といっても
無言でやり過ごそうというのか?
それならそれでコチラもそれなり対応するが…」

女の目が細くなる
なんというか殺る気満々な瞳というのは
こういものなのかもしれない

「い、いや喋るよ!喋るけどさ
なんていうの?なんでこんな処で寝てるの俺?」

「…はあ?それを聞いてるのはコチラなのだがな…
シラを切るつもりなのか…だとしては稚拙だな
帝国の刺客か?…まあなんにせよ覚悟する事だ」

剣先はいよいよ首筋に降りる

「ば、馬鹿!こんなことで嘘をいうなら
もう少しひねったこと言うわい!
だいたいだ、普通に考えても見ろ
刺客がその相手の部屋のベットで寝る訳無いだろ!
俺はアホか!」

「まあ…たしかに刺客というのは無いと思うが…
どうやってココに忍び込んだ
普通の人間がどうやって警備のモノに見咎められず
ガルバレンの私屋に居る?何者だお前」

普通のって言われても…特殊なのか普通なのか
まったく自分の事を憶えてない
何者だはコッチが聞きたい

「あのな…変な事を言うかも知れないが…
どうやら俺は記憶が無いみたいなんだよ
だから、何故どうしてココにいるか
自分でもさっぱりわからん
だから逆に聞きたい…俺って誰なんだ?」

真剣な瞳で女を見る
嘘は言ってないし、これで切られるというのなら
他に方法が無い
いやまあ、切られたくは無い、少なくとも
自分が何者なのかも判らず死ぬのはゴメンだ

「記憶喪失というやつか…嘘は言っていないようだが…
不可解な話だな…何者かの策謀か…だとすれば
一体どんな意味があるかは判らないが…
とりあえず私もお前の事は知らんな…
だいたい帝国民かは知らんが…人間族の知り合いなど殆どおらんからな」

剣を少し引いてくれる、とりあえずチョットほっとする
まあまだ抜き身のままなのだけど
そりゃそうだろう
自分で言うのもなんだが、聞いてる限り
俺って怪しさ満載だ

「…そうか…知らないか…
うん?人間族?俺って人間族?というか君は違うのか?」

剣を引いてくれた事で余裕も出来た
じっと彼女を見てみる
彼女の束ねた後ろ髪の横に長い耳
まるで獣のような耳だ
記憶が無いといえ、自分の中の価値観というか
常識はそこなわれていない
普通の人の耳とは違う、それは判った
一応自分の耳を触る
うん、普通の耳だ

「わっホントだ、なんだそれ?獣耳?
なんだってそんなことになってるんんだ?」

「…なんだってと言われても
生まれつきというか、コチラこそなんだってそんなところに
耳があるのかと聞きたいが…まあ種族の違いと言う事であろう
私は銀狼族のシェリル、ここは数日前まで帝国の砦であったガルバレンだ
地理的にはガルバリア地方といったところだな
お主は記憶が無いらしいが…そういった地名やなにかには
思い当たる節はあるのか?」

少し心配そうに尋ねてくる
剣は鞘に収められていた

「全く無いなあ…ちんぷんかんぷんだ
でもとりあえずアレだ、剣を収めてくれたと言う事は
信用してくれたみたいだな、ありがとうシェリル」

お礼を言う
自分でも自分が判らない状態だが
そうした俺の言葉を信じてくれるのは普通に嬉しかった

「なっ…べ、別に信用した訳ではない
ただ現実問題として、貴様が私に害を加えるのは不可能と思える
そして無害なモノに剣を向ける気は無い
貴様の…って…むう名前が無いのは不便だな…」

少し思案顔になるシェリル

「…よし仮の名前をつけてやろう
そうだな…うーむ…貴様はなんとなく
私が飼っていたボウロのクロウに似ているな
よしっクロウ、クロウと呼ぼう」

うんうんと頷くシェリル
よくはわからんが満足げだ

「仮の名前クロウね…まあいいけど…」

ボウロってなんだよ?ペットかなにかか?
こっちとしても名前を憶えて無いだけに
ずっと貴様とかお前って呼ばれるのだが
仮の名前も貴様も大差は無いのだし了承する
…まあ無ければ無いで困りはしないのだが

「まあなんにせよココには医療機関もほぼ無いのだが
幸いと言うか、そうしたことに詳しい女が一人いてな
そやつに診て貰うとして
詳しい事が判るまでは解放する事も出来ない」

先程より幾分か優しくはなっているが
真摯な瞳でこちらを見つめてくる
出会ったばかりだが判った
この女性は信用できる

「いいよ、記憶も無いし解放されても正直困る
なにせ手がかりは何故かこの部屋で寝ていた事だけだ
ある意味、シェリル、あんただけが鍵なんだ
色々世話になるかもしれないが宜しく頼む」

シェリルが何処の誰かは判らないが
今の俺に取っては言葉通り記憶の鍵になれるのは
彼女だけなのだ

「ならば良い、しばらくはこの部屋からも
出ることは出来ないが
不自由が無いようにはしてやるのでな
安心するが良い、判ったな?クロウ」

コクリと頷くと
満足そうにシェリルは微笑んでいた

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