銀髪戦姫弟4話序章


帝国歴137年(大陸歴412年)初夏


獣人国ギガントが
帝国ガルバレン砦を陥落したことは
両国に置いて大きな勢力変化をもたらす事となった
砦を超えられないとタカをくくっていた帝国は
以降の都市等に殆ど守備兵を配置しておらず
瞬く間に北西領の大半を失っていた

「それにしても陥落するまでが早すぎる…
3日で4都市を失うなど考えられんぞ!
まさかとは思うが獣人どもに対して内通者が
居たのではあるまいな?」

帝国軍北西師団長であるライスは
ガルバリア侯ディンギルに詰め寄った

ガルバリア侯国、幕僚会議室
ここガルバリアは帝国北西部領に置いての
最重要拠点でもある
その領主であるディンギルは元々この地を統べる王であったが
20年前に帝国の属国要請を受け
侯爵位と、北西部ガルバリアの領主としての地位を引き換えに
多少の自治権とともに無血降伏したのである

「閣下、お怒りも判りますが
元はガルバレン砦が僅かな時で堕とされた事が
原因かと思われますが?
彼の砦には最強と謡われた
帝国黒衣騎士団が500も駐留しておりましたし
駐留兵も5000はいましたな
まあ我々ガルバリア兵団を解体し
軍縮させなければ、その3倍は兵が配置できたとも
思いますが、それは今更言っても詮無き事ですな
それはさておき…まさか開戦初日であのガルバレン砦が陥落するとは
各領の守備隊長もおもいますまい
任務放棄とまではいきませんが、各地で迎撃にあたるより
ガルバリアまで兵を引き態勢を立て直そうと思ったに過ぎ無いでしょう
たしかに、閣下のお立場からしてガルバレンを堕とされ
今なお北西領土をここまで失ったとあれば皇帝陛下のご不興を買うことは
必死でしょうが、その責任を我々に向けられても困りますな」

ディンギル侯の言いようは概ね正論であったが
真実は人を傷つける
との言葉もある通り、師団長ライスの顔はみるみると怒りに赤くなっていった

「貴様…一領主の分際で帝国師団長である私に意見するか!」

力任せに机をドンと叩き恫喝するライス
しかし老齢ながらディンギルも元は歴戦の戦士、怯える事も無く
さらりとした顔でいた

「意見ではありませんな閣下、ご忠告ですよ
それよりも今はこの地を守る事が必須でしょう
ガルバレンを陥落された事で、ガルバリアまで敵の進軍をとめる
砦などはほぼございません
私はこの街が戦場になるのは是非とも避けたいと思っておりますし
直ぐにでも兵を編成しガルバレン再攻略を閣下の軍にお願いしたいと思っていますが?
属領となり軍を再編成されたときの契約に基づき
我が領地の安全は帝国が守って頂かないと…」

帝国は版図を広げていくにあたり
多くの小国を従えてきた
その際、多少の自治権と引き換えに各国の軍を解体し
帝国師団がその地の安全を保障するという目的で
都市砦を各国の資金により建造させ
そこの維持費などを出させていた

「わかっておるわ!ならばこそこうして
貴様のところに来ておるのだろうが!
そうでなければ…こんな田舎臭い街に誰が好んでくるか!」


師団長クラスともなると、帝国においてもそれなりの爵位を持つものが
務める事が多い、もちろん帝国南方のエルデヴァラ王国
東方の神聖ガーリヤマーラー教国方面の師団長は実績のあるものが
務めるのではあるが、特に強国のあるわけでは無い北方には
爵位以上に優れたものを持たない、いわゆる貴族軍人が多く配置されていた
北西部師団長ライスもその例に漏れず、皇帝の遠縁である以外に
大した能力も持たない凡夫であった

「閣下のご心中はお察し致しますが
この上は責務を果たしていただけるよう
臣下の一人としてお願いする所存でございます
我々が出来る事と言えば帝国師団への補給やこうして
この地を一時的に軍部司令室としてお貸しできるくらいですがな」

「…まあよいギガントなどと小生意気に国家を気取っておるが
所詮は獣人どもの集まりに過ぎんわ…
ガルバレンが落ちたのも、なにかの奇跡としか思えん
直ぐにでも取り戻して見せる…元よりあの砦は帝国内部からの攻めに対しては ほぼ無防備に近いしな…ふふ一気にギガントも落としてみるも悪くは無いな」

それは名案だと言わんばかりにほくそ笑むライス

「…それは心強いお言葉、そうあって頂ければ我らにとっては脅威が減り助かりますが
ガルバレンを落としたのはあの銀の死神ウルダの娘とのこと
閣下も聞いたことがおありでしょう?
バスクの地でエヴァンス卿を僅かの兵で討ったという
あの銀髪戦姫ですぞ?油断なさらない方が宜しいかと思われますが…」

ディンギル侯も若い頃は獣人たちとの戦いで戦地に向かった事もある
その時に出会った銀の死神ウルダは、まさに死神と言っても過言ではなかった
多くの仲間がウルダの手によって冥府へと旅立って行った
そして、その死神とつねに伴にあった大剣の戦士ガルム
二人がそろったとき、その地はまさに地獄といえる戦場となる
あのとき恥も外聞も省みず、逃げてきたのは懸命であったのかもしれない
さもなくば、今ココに自分がいる事は無いのだから
あれから20年近い年月が流れたが、今でもあの二人は健在と聞く
その娘である銀髪戦姫と呼ばれる娘は最近まで知る事は無かったが
ウルダの娘との事、噂にたがわぬ戦士なのであろう
数でこそ帝国とギガントの戦力比は圧倒しているが
1対1で考えた場合ウルダ達ギガントの将クラスに互角に戦えるものが
この北西部にどれだけ居よう?
それこそ帝国四将軍や八色騎士団長達で無ければ話にもならないと
思うのは自分だけであるまい…
ライス師団長も多くの兵を連れてはいるが、部隊長の殆どが戦慣れしてない貴族軍人ばかりである

「銀髪戦姫?フン、そのような小娘いかようにもなろう
お主はどうも獣人達を過大評価しておるようだが、やつ等はしょせん獣だ
我らが帝国師団の敵ではないわ!
今までは、帝国兵とはいえ辺境警備のものばかり
本物の帝国兵というものがどれほどのものか奴らに教えてやるわ」

意気揚揚と高笑いを浮かべるライス
ディンギル侯はそれ以上はなにも語らず
ライス師団長が敗れたあとのことを考え始めていた


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