虐襲3外伝コンテンツ
★ミミィ〜その後

いつまでも戻らぬ婚約者
僕は単身ジョビル島に潜入していた
彼女が所属していた解放軍から伝えられた訃報の話は
とうてい信じる事など出来なかったのだ

反対する皆の声を振り切り村を出たものの
僕は一人旅など初めての経験で
右も左もわからぬ始末
剣の方も多少は覚えがあるとはいえ
少し腕の立つ人間にはからっきし敵わない程度で
新婚旅行の資金にと蓄えていた僅かな金も悪徳行商に騙されたりし
ジョビル島近くの漁港に着く頃には殆ど失ってしまっていた


ユラユラと揺れる小船
向かう先は近づくことは死を意味するとまで言われ恐れられた
死の島ジョビル
…小船を調達するために僕がした事は
あまり思い返したくない
金も無く、力も無い自分に残された方法は
男として屈辱的な行為しかなかったのだ
女っぽい顔立ちの自分は女性に間違われる事も多かった
それを活かす事、それしかなかったのだ
港に集まる荒くれ者達を相手に
何人のソレを咥えたのか…
喉奥にまでつっこまれて出されたあの味は
これからも忘れられないだろう…
自然と出た涙は、ミミィを想っての事か
昨晩の悔しさから出たものか判らない
ただ、それでも僕は彼女に会いたかったのだ


島にたどり着いたのは一晩後の事
死の島と恐れられ、近づくモノを拒むと聞いていたが
意外なほどスンナリと上陸に成功していた
それでも警戒はしつつ少し歩くと
鬱蒼とした森が見えてくる
飛び交う昆虫や木々を走り抜ける小動物は
大陸のソレとはまるで違う異形のモノばかり
やはりココは今まで暮らしてきた場所とは
異なる処なのだと実感する
「こんな恐ろしい処でミミィは
あのサラド帝と戦ったのか…」
元々彼女が解放軍に付き従えたのは
紅き獅子アイラス様を慕ってと聞いているが
まさか並び称される程の戦士にまでになり
皇帝軍と直接戦う存在にまでなるとは思ってもみなかったのだ

無造作に生えたツタを小剣で切り開き歩んでいく
島についてからずっと感じていたことだが
たしかに巨大な異形の存在が生息する痕跡こそあるが
まったく自分を襲ってくる様子もなく
本当にココはジョビル島なのかと逆に不安にすらなっていた


そんな時だった

目の前に一人の可愛らしい少女が現れたのだ
幼ささえ感じる容姿の彼女は武器も持たず
何故こんな場所に?
警戒の念よりも先に驚きが僕の心を支配していた
「…お兄ちゃん誰?」
彼女は純粋なまなざしで僕にそう問いかける
どちらかといえば僕こそが彼女にそう問いたいところだが
素直に答えることにした
「僕はチャウ、婚約者のミミィを探して
この島にやってきたんだ、君は…何か知らないかな?」
よく考えればこの島で、少女は意思疎通のできる数少ない存在だろう
もしかしたらミミィの事を何か知ってるかも知れないのだ
僕は詰め寄るかの様に少女に近づくと逆に問いかけていた
「…チャウ?貴方チャウなの?
ウフフフ…そうなんだ…コレって凄く面白いっ
キャハハ、チャウ!あはははははは貴方はあのミミィに会いに着たのね!」

突然目の前の少女がゾクリとする程の笑みを浮かべると
高らかに笑い出す
先ほどまでの印象とは全然違う
何か異質の存在
少女は間違いなく人では無いモノだ
僕は知らずに後ずさりをしていた
だが聞き逃すわけにはいかない言葉があった
少女はミミィを知っているのだ
「君こそ…誰なんだ…?ミミィを知っているのか?」
「ギャリコよギャリコ、チャウ
貴方がツマラナイ存在なら直ぐ殺しちゃうところだったけど
と〜っても面白いわ、うふふ、なんて素敵なタイミングなのかしら
おめでとうチャウ、貴方を蟲城に招待してあげるわ
このまま真っ直ぐ進みなさい、そうすればチャウの大好きなミミィが迎えてくれるわよ」


そう言ったかと思うと少女はふわりと飛び上がる
背中にはまるで黒いアゲハ蝶の様な羽
そしてもう僕には興味ないとばかりに一瞥もせず
少女が指差していた方へと飛び去っていった

あっけにとられ暫く佇む僕だったが
ギャリコと名乗る少女の誘いを受けないわけにはいかない
戦死したと聞かされていたミミィは生きている
そう少女は言っているのだ
幾度も折れそうになった心に再び火が灯る 僕はギャリコの指差した方へと歩みを再開していた


それから半日ほど歩いただろうか巨大な城が見えてきていた
他に建造物など一切無かったこの島には不釣合いなソレは
先ほどの少女と同じ根源の異質さを感じさせた
その城に一歩一歩近づいていく
ギャリコの言葉が蘇る
チャウの大好きなミミィが迎えてくれるわよ
ミミィ…僕の大好きなミミィ
幼い頃から一緒で、いつも僕を護ってくれていた彼女
解放軍に参加すると聞いたときも、サラド帝を倒しにこの島へ行くといったときも
彼女は笑顔で直ぐに帰って来るわよと言っていた
そんな彼女が戦死したと聞かされたとき
僕はどうしても信じられなかった
彼女は今まで一度だって僕との約束をたがえた事など無かったのだ
だから信じた
彼女は絶対生きていると
そう信じてココまで着た
それも漸く報われる時がきたのだ
何故かギャリコの言葉に嘘は無いと確信できたのだ

ココまでの疲労の蓄積で禄に顔を上げることも出来ず
ただただ歩みを進める
ミミィは生きているという言葉からの安心感か
気が少し緩んでしまったようだった
ゼェハァと荒い息をしながら坂を上りきったところで
不意に声が掛かった

「チャウ…久しぶりね」
僕がもっとも聞きたかった愛しい人の声
聞き違えるはずは無い
僕は零れ落ちる涙を拭いもせず
笑顔で顔をあげた…




「ねえ…なんかギャリコがチャウがどうのって騒いでたけど
どうしたの?」

蟲城の一室、愛の小部屋と名づけられたそこに
かつて敵味方問わず恐れられた戦士アイラスの姿があった
「ん?まだ聞いてないが…ちょっと待て」
アイラスの頭を優しく撫で、そう問われた男は瞳をつぶる
彼の名はサラド、今は亡きギラン帝国最後の皇帝であり
現在はこのジョビル島を統べる蟲の王だ
彼の力は島全土に及び、知覚を拡げることで
島内で起きる総てを把握することも可能なのだ
瞳を閉じた彼を愛しそうに見つめるアイラス
彼の子を宿したその身体はふっくらと丸みを帯びており
出産も間近であることがわかる
「ほう…どうやらミミィの婚約者が島に来ているらしいぞ
という事は…なるほど、たしかに新婦側にも招待客があってもかまわぬだろう」

ニヤリと笑みを浮かべるサラド
「…あまり酷いことしちゃダメよ?」
アイラスは僅かに眉をひそめる
「俺がそんな悪人に見えるか?俺はもう総てを手に入れた
撮るに足らぬ存在を無下に扱う理由は無い
ギャリコも盛大に歓迎したいみたいだからな、まあ精々楽しんでいってもらうとしよう」

「もう…そんなこと言いながら昔みたいなわるーい顔してるっ
ホントしょうがない人なんだから…」

咎める口ぶりを見せてはいるものの
アイラスはサラドのそんな処にも惚れてしまっているのだ
アイラスは身重の身体を揺らすと愛するサラドと
甘い口付けを交わしていた


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