SilverSlaveStory
外伝2

帝国歴137年(大陸歴412年)

帝国軍バスク遠征隊総司令部である本陣テント内、本来何者にも侵される事の無い場所で
帝国伯爵エヴァンス卿は目の前で起こる事態を未だ飲み込めずにいた
数刻前までの余裕は既に何処にもなく、ただ立ち尽くす

「何故だ!?たかだか100人程度の獣人どもに
帝国兵3000を率いる私がこうも苦しまなければいけないのだ!!


既に部下たちは死に絶え、響き渡るのは自分の声のみ
敗戦は必至の状況にあったが、せめて一太刀浴びせぬことには、この屈辱を晴らせそうにも無かった

「どうした!獣人ども!!痩せても枯れてもこのエヴァンス
貴様らごとき蛆虫どもに引けなど取らぬわ!


雄たけびと共に襲い掛かる獣人兵を一合の元に切り伏せる
それは先ほどから繰り返される光景で挑むもの達は皆、無残に散っていた
さすがに優勢であるはずの獣人兵たちにも動揺の色が走りだす

その時であった

「…エヴァンス卿、貴殿の手の者は総て降伏したか屍と化した
諦めて大人しくしてもらいたいのだがね」


凛とした声が響いた

「き、きさまは…ウルダの小娘!」

エヴァンスが憎しみを込めた瞳で睨み付ける
其処には銀髪の麗しき女剣士が立っていた


「皆の者、ご苦労。あとは私に任せ下がるが良い」

周りを取り囲む獣人兵達が声の主に一礼をするとエヴァンスの囲みを解き
静かな小波のように幕舎から退いていく

「エヴァンス卿、勝敗は決した。潔く自決されよ
……それとも捕虜となられるか?
乞われるのなら命だけは許して差し上げても構いませんが?


クスリと小さく笑う女剣士、その笑みがエヴァンスの自尊心を深く傷つけた

「おのれ!おのれおのれおのれ!たかが獣人の分際で!」

返り血に塗れた剣を女剣士に向ける

「身の程を知れ!ウルダの小娘風情が……!」

うなる豪腕から凄まじい一撃が繰り出される
引退したとはいえ帝国騎士団の戦騎長まで務めた人物である
その威力は女剣士の腕力では防げたとしても無傷では済むものではない

「貴様のその腕…その脚を切り刻み…
芋虫のような身体で這いずり回りながら
逆に泣いて命乞いをさせてやるわ!!」



エヴァンスはそれは楽しそうだと下卑た笑みを浮かべた
一撃一撃が必殺の其れで手足など簡単に吹き飛ばされそうな勢いである
休まずに轟々とうなりながら繰り出される剣圧は凄まじく
受ける女剣士の命運も尽き果てたかと思えた
「どうした小娘!避けてばかりでは我が首は取れ・・・」

ひゅー
喉に空気が入る音がする

二人の一騎打ちを見守る獣人兵達も唖然とした

一太刀…
其れも閃光のような鋭い軌跡を描いた神速の一撃がエヴァンスの首を斬り飛ばしていた

銀髪の女剣士は足元のエヴァンスの首を一瞥すると、剣を鞘に収めつつ振り返った
そして呆気に取られた顔の部下達を見渡し、大きく高らかに宣言した

「帝国伯エヴァンスは討ち取った
最早この地に我々に仇なすものは居ない
勝鬨の声をあげよ!ギガントの勝利の声を!」


その声に反応し皆の顔には笑みがこぼれ、幕舎の内外から歓声が上がる

「デル・オーパ・ギガント!!」
「我らが王妃万歳!!」
「銀髪戦姫シェリル閣下万歳!!!」


歓声は鳴り止む様子が無く、次第に宴へと変わるであろう
僅か100に満たぬ獣人族の1部隊が
帝国兵三千の軍勢を退けたのだ
奇跡の勝利といっても過言ではない大勝利である

「姫ー!勝った!勝ったよー!!」
「本当にあんたは凄いよシェリル!!いや我らが戦姫閣下
これからもよろしく頼むぜ!!」

「シェリー…いえ姫様、貴女はわれらの誇りですわ」

主だった部隊長達が次々とシェリルの元に集まり称えていく
降り注ぐ勝利の声に包まれながらシェリルは微笑んだ
皆の力が在ったからこその勝利だと…

帝国歴137年(大陸歴412年)春
ウルダ平原の戦いはこうして幕を閉じたのだ



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