ベッキー

〜レベッカの恋 はじまり〜

放課後の宮本研究室


「じゃあねーベッキーまた明日ー
最後の1人が部屋を出ていく
室内に静寂が戻る
いつもの騒がしいメンバーの悩み相談も一段落したようだ
レベッカは溜息を吐きつつ、コーヒーブレイクを取る為に席を立つ
とはいえホンモノの珈琲はニガテなので
実際は買い置きしておいた紙パックのオレンジジュースだ

「やれやれーもう7時近いじゃないか…
あいつら際限知らないのか?まったくもー


悪態を吐きつつも、学園での日々はレベッカにとって
かけがえの無いモノとなっている
大学時代。恩師である教授との交流以外皆無に近かった
もちろんそれでも困る事など無かったのではあるが
今思えば、なんと閑散としている人生なのか
わずらわしさすらが無いとは言わないが
コミュニケーションの大切さを日本に戻り教師となって
あらためて実感していた

「人は絆が大事なのかもな…」

誰にとでもなく呟く
そうして物思いに耽っているとコンコンと
扉をノックする音が響いてくる

「なんだーまだ残ってる奴居たのカヨ…」

愚痴りながらも先ほどまでの恥かしい考えが顔に出ない楊
パシン軽く頬を叩き入室を促した


そこには1人の男子生徒が立っていた

「さ、さっきはスイマセンでした…宮本先生」

開口一番、平身低頭に頭を下げる男子生徒

「い、いや…いきなりあやまるな
あの時は…その…恥かしくはあったが助かったしな
あまり気にしないでもいいぞ」


レベッカは戸惑いつつも頭を上げるようにと促した

〜数刻前〜
令、姫子と雑談をしながら歩いていた折り
ふざけあいが過ぎたレベッカたちは
通路でとたばたと追いかけっこを繰り広げていた

「待て姫子!いい加減にしろー

夢中になってるあまり周囲に目が行かなくなっていたレベッカは
廊下の曲がり角から出てきた生徒に思いっきり激突してしまっていた

「あうううう・・・鼻…うった…いたたた
もーなんでこんなとこにー人がいるんだよー」

涙目になりながらも自分の事を棚にあげ
ぶつかった相手に不満を漏らしつつ見上げる

「だ、大丈夫?ご、ごめんね
怪我とかしなかった?」


心底すまなそうに顔を覗き込んでくる少年に
レベッカに罪悪感が目覚める
悪いのはこんなところではしゃいでた自分なのだ
反省と謝罪の言葉を返そうとしたとき

ヒョイ

とレベッカの身体が宙に浮いた
「あ…ほ、保健室に運ばないと!」


あっけに取られる一同を他所に、少年は一心不乱に走り出していた

「お…おい…みんなみて…」

どくんどくんと早鐘を打つ鼓動
気恥ずかしさ以外の何かで身体がほわほわとしたものに包まれる

(なんだろ…ちょっと…ふしぎなかんかくだ…)

心地良さを憶えるレベッカ
その原因が一体なんだったのか
その時のレベッカは未だわからずに居た…